何を勿体ぶる必要があるのかと、俺は黙り込んだままで彼女の目を見つめ返した。その瞳に映る自分と、初めて目が合った気がする。それ程に俺は彼女を見つめたし、彼女もまた然りだった。

「イキシア」

「……イキシア」

彼女の言葉をオオム返ししながら、俺は視線を外した。甘い甘い、香り。酔いそうな程に。赤、白、黄色に紫。色鮮やかな美しい花。

「アロマキャンドルにするにしては、マイナーなんじゃないですか?」

「どうなのかな。でも私、好きなんだ」

揺れる炎は瞳を閉じてもちらちらと踊り続ける。ダンスが始まったのか、グラウンドからは軽快な音楽が響いてきていた。無事に宏は美月と踊れているのだろうか。

俺は一体何をしに来たのか、彼女と『お楽しみ』の時間を共にしている。彼女は嫌がらなかったし、俺も今思えば大した用もなかったので、ごく自然に始まった時間。なのにとても、不自然で不安定で脆い。何故俺は息を切らして、彼女に会いに来たんだろう。一体、この関係は何なのだろうか。


あんたって、俺の何?


視線に乗せた問に彼女が応えるはずもなく、ただ穏やかな笑みを口元に浮かべているだけだった。