「……アロマキャンドル」
意味もなくつぶやくと、ライターを手にした彼女が不思議そうに首を傾げた。俺とフラワーアレンジメントぐらい、彼女の口からそんな単語が出るのは意外のような気がする。生徒に蹴りを食らわすような人のくせに女性らしい、なんて馬鹿げた思考だ。彼女は女性なのだから。
確かに、彼女は線が細く端から見れば繊細さを纏っているが、あくまでもそれは見た目だけなのだとこの数ヶ月で嫌と言うほど思い知らされた。アロマキャンドルよりテコンドーの方が数段似合いだ、彼女には。
「ねぇ、キミ失礼なこと考えたでしょう?」
「……いえ、別に」
真珠色のグラスはオレンジ色を纏い、美しく光る。ぼんやりと広がる視界で、彼女は確かに『女性』だった。ほのかな甘い香りが鼻孔を掠め、俺を染めていく。
「何か、花の香りですか?」
閉め切られたカーテンの隙間から漏れるように耳に届くざわめきが妙に現実味を帯びていて、俺は深く息をした。切り離したい、今は。
「んー……知りたい?」
オレンジ色に照らされた彼女は、いつになく真剣な眼差しを俺へと向けていて、ざわりと胸が波打つ。