小さく3回、ドアをノックする。たった4ヶ月前にはノックするのもとてつもなく勇気が必要で、何分もドアの前に立ち尽くしていた事もあった。今ではこの3回のノックで彼女は俺だと分かるようにまでなった。俺の叩き方は、とても部屋に響くのだと笑った彼女は、いつものように眩しかったのを覚えている。

「高橋君?」

ドアを開けるなり俺を確認せずに名を呼ぶ彼女に、何故だかとても嬉しくなった。そうです、と急いで整えた息で平静を装い告げると、彼女はにこりと微笑んで俺をカウンセリング室へと通す。今日も表のテディベアとお揃いのカチューシャとスカーフを巻いていた。

いつの間にか慣れきってしまっていた甘い香りを、今日ははっきりと感じた。見れば、デスクの照明だけが点いた暗い部屋の真ん中で、可愛らしいグラスに入ったオレンジのキャンドルがぽつりと置かれている。

「これから私のお楽しみタイムなのよ」

すっかり俺の定位置となったソファに座ると、彼女も正面に腰を下ろした。

アロマキャンドル、好きなの。

そう言って笑った彼女に、なる程と1人納得をしてしまう。この甘い香りはアロマキャンドルのものだったのか。