「ダンスさ、お前誰かと約束してんの?」

1人とか寂しいよ?

今度はズボンのポケットからいちごミルクの見るからに甘そうなチョコレートを取り出して、ぺりぺりと包装を破がしながら、彼はその明るい声とは裏腹に真剣みを帯びた視線を寄越した。

赤とピンク、それに白。よく彼の手に握られているいちごミルクの商品の配色。あからさまに少女じみた味と、舌に残る気だるい甘ったるさが容易に想像できるのに、今は何故か甘そうに見えない。

「まさか、そんなの居るわけないだろ。大体、もう帰ろうかと思ってるんだけど」

わざと輪を広げたリュックは背中には沿わず、不安定に腰の辺りで揺れる。変に負担が掛かって痛む肩を、ぐるりと回して息を着いた。肩が凝ろうが痛かろうが、周りの学生が皆輪を広げ背負っているので、自分1人だけ登山家のようにぴったりと背中に着くように背負うと目立ってしまい嫌なのだ。

「帰るのか?せっかく高校最後の文化祭なのにー」

そう言うお前はどうなんだよ。口には出さずに視線に乗せると、彼は苦笑いを浮かべてスコーンを1つ口に放り込んだ。