騒がしい廊下を抜け、人をかわしながら階段を上る。こんなに暑くても、屋上の日陰は随分と涼しく風も心地よいものだ。今日は特別に彼を屋上に招待して、そこで昼食をとることにした。本来屋上は1人でだらだらと時間を過ごすための俺だけのオアシスであり、その事を重々理解している彼は大層驚いていた。

財布に忍ばせている2本の針金を鍵穴に差し込み、慣れた要領で鍵を外す。その間約10秒。良くここまで慣れたものだと自分に呆れてしまう。

重い扉を押して外に出ると、強い風が髪をかき混ぜた。何ヶ月か前までは毎日感じていたこの感覚、いつの間にこんなにも遠くなってしまったのだろうか。

「わー……何この爽やかさ!屋上ってこんななんだな」

小さな子供のように目を輝かせて、宏は嬉しそうに笑った。俺自身も忘れかけていた感覚が体に染み渡るのを感じ、自然と笑みが漏れる。

日陰に腰を下ろし片っ端からパックを広げると、微かに香る食欲をそそる香りに腹の虫が疼いた。どうやら余程空腹らしい。早速とばかり口で割り箸を割り、ソース焼きそばに箸を付ける。口に広がる香ばしさに、一気に唾液が湧き出てくるのを感じた。