「ただいま~!」

息を切らしながら戻ってきた宏に、都合のいい俺の頭は感謝の念を感じながらも、その一方で一体どこに行っていたのかと責めるような気持ちを視線に乗せてみる。

「どこ行ってたんだよ。たこ焼き冷めるぞ」

「ちょっと後輩に絡まれちゃってさ」

絡まれたのではなく絡まれに行ったというのが正しいところなのだろうが、あえて指摘しないことにした。宏がこんなに突然な行動をとり、小さな嘘をつくときは深入りしない方が良いと俺は学習している。首を突っ込んで良かった例がない。

へらへらと苦笑いで返しながら、彼は美月に視線を移した。もう既に、俺と彼女の間に流れていた違和感のある空気は跡形もなくなっている。けれども、そんな事には良く気が付く宏は何かを感じたかのように目を細めた。

「じゃあ、俺達も昼飯食べなきゃだし、帰るね」

「あ、うん。買いに来てくれてありがとう!頑張ってね」

にこやかに別れの挨拶を交わす彼らに、俺も右手を軽く振るだけの挨拶をして美月の店を後にした。白いポリ袋からの熱気がゆるりと俺の指を撫でる。吹奏楽部のコンサートが終わったのか、瞬く間に校内外に人が溢れてきた。