1年の時には参加したが、今年は止めておこうと考えていた。明日は休みだし残っても構わないと言えば構わないのだろうが、フォークダンスをする体力すら残っていないだろうと推測をしている。

一昨年は文化祭の劇の王道ド真ん中、ロミオとジュリエットでナレーションをしただけで大して体力を使いもしなかったのだが、今年は無理だ。寧ろ日給を払って欲しいぐらいだ。精神的にも身体的にも、この労働は俺を蝕んでいくのだから。

「今年は参加しないつもりだ。今日だって今すぐ帰って眠りたい気分だしな」

明るく笑って言ったつもりだったのに、何故だか彼女はとても複雑な表情をした。安堵と悲しみ。そして驚きを孕みながらも、その一方ですでに予想をしていたような。読み取れない彼女の表情をどうとらえて良いか思案している内に、複雑さは溶けて消え、彼女は自然な笑みを口元に浮かべた。

「あはは、やーっぱりっ。そうだと思ってた!だって顔が疲れてるもんね」

明るく話しながら笑う美月に、空気はいつものバランスを取り戻そうとしていた。見れば、宏がこちらに向かって走ってきている。

だろ?だなんて返しながら、俺は聞こえないように安堵の息を小さく吐いた。近くに聞こえ始めたセミの声に、まるで自分は今まで異世界にいたのではないかと、本気で考えてしまう。