「……どうした?」

動揺している自分に気が付き、妙に焦りを感じた。美月が突然雰囲気を変えるのは別段珍しいことではないし、それにより動揺や焦りを感じる要素など何一つ無いはずなのに。どうしてか。それは分かっているのだ。

隣に宏がいないからだ。

3人で成り立つ関係は、果てしなく脆い。支え合い、補い合うからこそ存在していられる関係。宏という要素を欠いた今、バランスは保たれることは有り得ない。

分からないのは、何が彼女に彼女自身を切り裂く鋭利さを与えたのかだ。

「後夜祭、どうするの?」

壊れた雰囲気を元に戻すかのように彼女はにこりと微笑んだ。声色も明るさを取り戻し、手は再び鮮やかにたこ焼きを回す作業を開始する。その様子が、ピッチワークを連想させるほどに継ぎ接ぎで不自然に思えて、緊張してしまう。

「こうやさい?」

別のことばかりに気を取られ、上手く聞き取れなかった彼女の言葉を反復すると、彼女はうんと頷いた。

後夜祭とは、文化祭終了後グラウンドで催される生徒会主催の催し物だ。店の部門では売上競争を制したクラスへ、劇や映画では来客数で表彰をされ、その後は有りがちにフォークダンスで締めくくる。