だけどね。
「ナミがいないと無理だよ………。」
また泣き虫に戻ってしまう。
怖がりに戻ってしまう。
人を信じられなくなってしまう。
「死なないで。」
俺を独りにしないで。
ナミがいない世界で生きていけるほど、俺は強くないよ。
「クオ。」
名前を呼ばれて無意識に下がっていた顔を上げる。
「私が死んだら灰は海に撒いて。」
「海…?」
「そ。よく連れてってやったでしょ?」
「あぁ。」
この辺の近くに海がある。
俺がナミに連れてってもらった場所も海だ。
季節に関係なく春も夏も秋も冬も連れてってくれた。
夏になると俺は水や砂で遊んでだけど、ナミはずっと海を見ていた。
冬は俺も一緒に海を見ていた。
「あの海はカイトと私の始まりの場所なんだ。」
幼少期の二人がよく遊んだ場所。
プロになることを約束した場所。
ちなみにナミの名前は「波」
カイトの名前は「海人」
二人が育った施設の院長があの海からとって付けた名前らしい。
「カイトは天国にはいない。死んであの海に還ってきたんだよ。」
わざわざ私が灰を撒いてやったんだからってナミは笑う。
「だから私もあの海に還るよ。」
ナミの言葉に必死に我慢してきた涙が一粒だけ零れた。
もうすぐ、ナミは死んじゃうんだ。
―――私が死んでもクオは幸せになって。