「お前ら遅刻すっぞー?」

「あぁ~!かなちゃんっ!」

「こら、先生だろーが」

「えへ。だってみんな呼んでるじゃーん」

「菜都、いこ。遅刻しちゃう。」


島崎 奏(しまざき かなで)。
私が嫌いな、去年の担任。
人の事にずかずか入り込んできて、それで…
あまりにも、隼人に似すぎている彼。

「お、鈴木は偉いな!ほれ、柊も見習えよ?」

「もー、かなちゃんこそ遅れちゃうよ?」

「っ、やべ!じゃあな、お前らも遅れないようになー!」

「はぁーい!」

「は、ゃと…ッ」

「結蘭?どしたの?顔色悪いよぉー?」

「だいじょ、ぶだ…よ?いこ、菜都」

むに、と。
ひっぱられる頬。
菜都を見ると、少しムッとしていた。

「無理しちゃ、ダメ。私には頼ってよ、結蘭」

「な、つ…。ほんと、大丈夫だか…らッ」

そのとき、頬に何かが伝った。
それが涙だということに、しばらくしてから気づいた。

「隼人兄のこと…まだ、忘れられない?」

「ッ!!う、ん…。島崎先生、似すぎてるんだもん…イヤでも思い出す」

5年前と同じ、この光景も。何もかもが、私の中から隼人の記憶をひっぱりだす。
隼人と初めてであったのも、島崎先生を初めてみたのも、桜の下だった。
思い出したくないのに。私の中からは、消えないんだ。

「そ、だよね…。どうしてだろうね。隼人兄は、どうして…」

「ごめん、菜都…。私の前で隼人の話はしないで。」

「っ、ごめんね…?結蘭…ほんと、ごめん」

「大丈夫だから、ね?菜都は先に行って。私も後からちゃんと行くから…」

「約束だよ?お昼一緒に食べよーね?」

「うん。約束」


私は菜都が教室へ行くのを見送ると、いつもの場所へと歩みを進めた。