「だってアイツの人生決めんの俺じゃないし。
それにさ、今度は俺が待ってやる番でも良いんじゃなかなぁ、って。」


言いながら、彼は煙を吐き出した。


俺は前のめりになりながら、目をぱちくりとさせる。



「そういやレナ、名字が出来たんだって。」


「…名字?」


「何か昔世話になった人がいて、その人につけられた、って。」


そう言って、彼は思い出したように笑う。


そして財布から一枚の名刺を取り出し、俺に見せた。



「…一条、って…」


レナちゃんの新しい店での名刺には、“一条レナ”と書かれていた。


清人と同じ名字。



「これさ、笑うだろ?」


確かに、“一条清人”っての自体、水っぽい名前やけど。


つか、“一条”ってのは水商売ではありふれてるけど。


でも、まさかこんな偶然が、って。



「キャバに嫁いだ気分ー、って喜んでたよ、レナ。」


そんな風に、彼は他人事のように言う。


俺は軽い眩暈を覚えた。



「笑うとこちゃうやろ。」


どんだけボケボケなふたりなんやろう。



「お前さ、心配にならへんの?」


「ならねぇよ、別に。」


「客と何やってるかわからへんやん。」


良いんだよ、と彼は言う。



「レナが客と寝てでもナンバーワン目指したいなら、それで良い。」