「誰か救急車だ、早く!」


事務所の中からも人が出てきて、更にその場は騒然とした。


なのに俺は状況のひとつも理解出来ず、体が震えたっきり足がすくんで動かない。


清人が刺されて血が出てて、コイツ、死ぬん?



「助けたいと思うなら何かしろ!」


ハッとした。


動かすな、止血しろ、ナイフは抜くんじゃない、と国光さんはたたみ掛けてくる。


俺はとにかく言われた通りのことをした。



「死ぬんじゃないぞ、ジル!」


国光さんが声を絞る。


通報されたのか巡回中やったんか、ポリ公がきて、園田を抑えつけていた組員と揉めている。


他の組員を始め、一般人のギャラリー、更に駆け付けた警官たちまで雪崩れ込んできて、でも俺はただ、清人の無事のみを祈り続けた。


俺の服が清人の鮮血に染まっていく。


そんな中で救急車が到着して、俺はまた清人から引き剥がされた。



「こっちには俺と銀二が乗るから!
お前ら嶋さんを守り抜け!」


そう指示を出した国光さんは、俺を引っ張って救急車に乗り込んだ。


キャスターに乗った清人が運ばれ、サイレンの音が鳴り響く。


俺は真っ赤に染まった自らの手の平を見つめながら、必死で処置をする救急隊員に瞳を揺らした。



「…キヨは大丈夫なん…?」


「情けない声出すな!」


横から口を開いた国光さんは、拳を握り締めた。


救急車はとにかく乗り心地が悪く、椅子が硬くてそして狭い。


俺は必死で震えを堪えることしか出来なかった。