いつからこんなにも、生きることが辛いと感じるようになったんやろう。


何でこんなにも、毎日毎日出口の見えないループの中で苦しまなあかんのやろう、って。


体の傷は治っていくのに、心の傷はえぐり取られるように、日に日に削ぎ落とすように削られていく。


痛くて、そして悲しかった。



「今日は随分と無口じゃない。」


視線だけを持ち上げると、レイコさんはコーヒーを淹れる瞳を落としたままに珍しく上機嫌なご様子や。


この部屋は、リビングテーブルがバーカウンターのようになっていて、ジョン・レノンを聴きながら、そこで俺はいつも、定位置みたいにうな垂れてるのが好きなんやけど。


大抵は、ベッドかココ。



「レイコさんは昔よりずっと、俺と喋ってくれるようになったやん。」


昔は、話し掛けられると言えば、嫌味を言われる程度のものだった。


それ以外は大体いつも、俺が喋らなきゃ答えてくれへんかったのに、って。



「ホント、慣れって嫌ね。」


そしてコトッと目の前に置かれたコーヒーのカップ。


この部屋に酒はなく、それどころかレイコさんがコーヒー以外のものを飲んでるのなんて見たことがない。



「なぁ、なら俺と付き合わへん?」


「……はぁ?」


「俺、レイコさんとおったら安心するし、レイコさんもそうやろ?」


「だからってどうしてそういう話に飛躍するの?」


否定されなかったことは意外やったけど。


でも、相変わらずのクールビューティーでいらっしゃる。



「俺、レイコさんのこと好きやで?」