言い終わるや否や、バチン、と乾いた音が響いた。


レイコさんが、清人の頬を張ったんや。


思わず言葉も忘れて呆然とする俺と、そして何故かふっと笑った清人。



「さんきゅー。」


「どういたしまして。」


と、怒りのこもったレイコさんは、そのまま上着と荷物だけを手に、きびすを返した。


一体何事やねん。



「すっきりした。」


「すっきりちゃうわ!
何やっとんねん、つーかどういうことやねん?!」


捲くし立てる俺に、清人は笑いながら殴られた場所を手の平でさする。


そして、レイコさんに謝っといてー、と。



「お前が殴ってくれりゃ一番だと思ってさ。」


だからここ来たんだけど、と清人の台詞。


益々意味がわからなくて眉を寄せると、これ、と彼はポケットから銀色に光るものを取り出した。


ちっちゃな円形のそれは、どこかで見覚えがあるが、思い出されへん。



「レナの手首のヤツ。」


レナちゃんの手首にあった、ブルガリのブレスやった。


清人がブルガリ好きやし、もしかして、とは思ってたけど、欠片だけになったこれの意味するところは。



「千切れたんだ。」


やっぱり子供みたいな顔で、そう呟かれた。


清人はレナちゃんに、それでも会いに行った、ってことやろう。