ひとりで眠るのは苦手だった。


真っ暗な中で目を瞑ると、決まって思い出したくない過去ばかりが頭の中を通り過ぎる。


そして、理乃を抱き締めて眠ってやってた頃を思い出すんや。



「邪魔なんだけど。」


頬をつねられ、俺はくぐもった声をあげた。


重たい体を仕方なくも起こすと、レイコさんの呆れた顔がこちらを向く。


ぬくもりを求める場所は、もうここにしかない。



「チューしてあげるから怒らんといてやぁ。」


「いらないわよ、気持ち悪いわねぇ。」


俺は笑った。


孤独を満たす代用品、と言えば語弊がある上に失礼だろうが、レイコさんの存在はそんな感じだろう。


多分彼女も、何かを思うでもなくそれをわかっているのだと思う。



「俺、レイコさんの寝言聞いたー。」


「…嘘でしょ?」


「ホンマやって。
銀二くんが大好きなのー、って。」


おどけて言うと、彼女はまた呆れた顔になる。


愛も恋もなければこんな風に言えるのに、なのに何で理乃とは上手くいかないんやろう、って。


どこに居てもアイツのこと思い出すんやから、俺は重症や。



「あたしがアンタを好きになるなんて、ジョン・レノンが生き返ることよりありえないわ。」


「それ、めっちゃ失礼やん。」


煙草を咥えた彼女のそれを奪うと、レイコさんはあからさまに不貞腐れて見せた。