珍しく早く帰れても、理乃との会話はない。


同じ空間に居ても、言葉を交わせばどちらからともなく喧嘩腰で喋ってしまい、やからこそ、面倒やったんや。


今更理乃の機嫌を取ったって何も変わらないし、そんなの付け焼刃でしかない。


自分の気持ちだって錯覚だと言って誤魔化してしまいたかったし、愛しすぎて、深入りしすぎて清人のようになるのも怖かった。


アイツもレナちゃんも、いつも悲しそうな顔をしている。


俺はそんな風にして、それでも無理やり関係を持ちたくはなかったんや。


傷つけ合うことで幸せは感じられない。


そんなことがわかってるからこそ、俺は理乃との距離を取った。


それでも、唯一まともに顔を見られるのは、いつも彼女が寝静まってから。



「おやすみ、りぃ。」


そう言って、頭を撫でてやるほんの数秒だけ。


愛しさと自責の念がぐちゃぐちゃに入り混じり、呟く言葉。


いい加減、離れてやらなきゃ理乃が可哀想だとも思う。


でも、反面でその存在に依存している自分もいる。


理乃がいるから俺は、人の心を忘れずにいられる、理乃がいるから、って繰り返して。


結局俺も、自分勝手なんやろう。