それは、夏になるより少し前の出来事やった。


ドンッ、と肩口を掴まれ、壁に押し当てられると苦痛に顔を歪めてしまう。


嶋さんは、恐ろしい形相で俺を睨む。



「言えよ、何か知ってんだろう?」


「…何がですか?」


「ジルのことだよ。」


アイツが嶋さんに内緒にしてることなんて、山ほどある。


一体どのことがバレたんやろう、と思いながら、また「何ですか?」と聞いた。



「俺も多少のことには目瞑っててやってるけど、最近アイツのサボり癖が目に余る。
何か知ってんだろう、ギン。」


俺は表情を変えずに視線だけを逸らすが、じりじりと壁に押し付けられる。


歪んだ顔が鼻先へと近づけられた。



「知りませんって。
つか、知ってても俺が親友売ると思います?」


言った瞬間、ガッ、とボディーにいつもの如く右フック。


もろにみぞおちに入り、俺はがはっ、と一瞬呼吸さえも出来なくなる。


ぶっちゃけこれ、喋るまで解放してくれないつもりなんやろうし、ただの拷問やんけ。



「ジルが辞めたがってる理由は何だ?」


辞めたがってる?


そんなの初めて聞いたし、何よりアイツ、そんな気配すら微塵も見せてなかったのに。


驚いて目を見開くと、「知らなかったのか?」と嶋さんのスカした顔。



「原因に心当たりくらいあんだろ?」