呟きは、物悲しかった。


何で周りのやつらは馬鹿みたいに騒いでるんやろう、何で俺らだけ、って。


清人はこんな世界に馴染めるような男じゃないねん。


それでも俺のために、“辞めたい”なんてことは口にしない。


俺は途方に暮れながら、やりきれない気持ちを噛み殺した。



「なぁ、清人。
もしもひとつだけ願いが叶うとしたら、お前はどうしたい?」


祈りにも似た問いだったのかもしれない。


それでも彼は、わかんねぇよ、と視線を流す。



「マサやアユにはまともな親のところに生まれ直させてやりてぇし、お前の母親も生き返らせてやりてぇ。
花穂もそうだし、理乃にしてもレナにしても、幸せになってもらいてぇと思ってる。」


そこに自分のことなんか、ひとつもなかった。


清人ってヤツは、優しすぎて、そして自分を犠牲にしすぎる男やねん。


そして本当は、まるで後付けのように言ったレナちゃんのことが、一番大切やってこと。


それでも、一緒に居ても幸せにしてやれない、ってわかってるんや、清人は。



「嶋さんの情報、ポリに売るか?」


決意を決めて言った言葉に、彼は無言のままに首を横に振った。



「そんなことしたら殺されるだろ、普通に。
何より、そうなった時にそれをすんのは俺の仕事だよ。」


つーか、そしたら俺らだって捕まるよ。


そう、清人は言う。


何で俺まで庇おうとするねん。


俺らは一心同体やと思ってんのは、結局は俺だけやねんな、って。



「寂しいこと言うなやぁ、キヨ。」


清人は小さく笑っていた。


俺らはいつも、大事なものの狭間で揺れてるんやね。