「あと半年もすれば、俺もレイコさんと同い年やな。」


「あら、もうそんなになるの?」


「そうやんか。
んで、もう一年経ったら俺のが年上クンになるんやで?」


言った瞬間、彼女は珍しくあははっ、と声をあげた。


思わず眉を寄せると、レイコさんは、ねぇ、とこちらに視線を投げかける。



「何で銀二は、当たり前のように来年が来ると思うの?」


「…え?」


「誰にでも平等に明日が来るなんて思わないでよ。」


そう言いながら、彼女は淹れたてのコーヒーに細く息を吹いた。


湯気は揺れ、俺は目を見開いたままに言葉の意味を探ってしまう。


オカンも花穂ちゃんも、ある日突然死んだんや。


俺だってレイコさんだって、他の誰だって、一年後どころか明日生きてる保証もない、ってこと。



「夢も希望もないなぁ。
そんな悲しいこと、わざわざ言葉にせんでもえぇやん。」


「夢や希望?
銀二のくせに、随分と馬鹿みたいなこと言うのね。」


「レイコさんは、明日死んでもえぇん?」


「今死んだって構わないわよ。
まぁ、理想は痛みなく綺麗に死にたいけどね。」


やっぱり悲しいことを言う人やった。



「んでも、レイコさんが死んだら、例え誰が泣かんくても俺は泣くと思うで?」


「あらやだ、勘弁してよねぇ。
そんなことされたらシラけるし、格好悪いじゃない。」


それでも彼女は、さっきからずっと、同じ顔を崩すことなく笑っていた。



「生きるも死ぬも、きっと別の世界に行くだけの違いよ。」