「あらあら、ひどい顔。」


彼女はクスリと笑いながら、俺の前に淹れたてのブラックコーヒーを置いてくれた。


煙草に火をつけるその横顔が照らされて、相変わらずジョン・レノンの曲の世界が似合う人。



「珍しいやん、レイコさんがこんな時間に起きてるの。」


「寝てたんだけどね。
ジルくんから電話が掛かってきて、そのうちそっちに馬鹿が一匹行くと思うから、よろしくー、って。」


清人が?


つか、何で全部お見通しやねん。



「相変わらず友達思いねぇ、彼も。」


「そんなん言うレイコさんかて、起きて俺のこと待っててくれたんやろ?」


「馬鹿な子ね。
あたしはただ、起こされて寝られなくなっただけよ。」


俺は小さく笑いながら、そういうことにしといてやった。


苦くて夏でも熱々のコーヒーをすすりながら、同じように煙草の煙をくゆらせる。



「なぁ、俺当分ここに泊まって良い?」


「ダーメ。」


「頼むわぁ、レイコさんしかおらんねんからさぁ。」


「嫌よ、あたし。
誰かと暮らすなんてしたくないし、毎日寝心地が悪いのなんて考えただけでも憂鬱になるわ。」


とんとん、と彼女は灰皿に煙草の灰を落とした。


俺は子供みたいな顔して口を尖らせる。



「そんな顔してもダメなものはダメよ。」