悲しくも絞り出したような声。



「ならもう、俺ら離れて暮らした方がえぇんちゃうん?
理乃がそれを望むなら、きっとそれがお互いのためやよ。」


精一杯の理乃の“助けて”のサイン。


わかってたけど、それでも俺も苦しかってん。



「りっくんは昔からそうじゃない!
自分の気持ちなんか一言も言わないで、あたしの我が儘ばっか聞いて!」


「俺は理乃の“お兄ちゃん”やろ?
やったらそれが当然ちゃうん?」


俺の気持ちなんか聞いたらあかんよ、理乃。


お前を傷つける言葉しか言えんのやったら、蓋するしかないやん。



「じゃああたしのこと抱いてよ!」


さすがに驚いて、目を見開いた。


ただ呆然とする以外に出来なくなった俺に向け、嘘つき、と彼女は吐き捨てる。


たったひとつ、俺が聞けない理乃の我が儘やった。


唇を噛み締めたようにきびすを返そうとした彼女に、焦って制止しようとして腕を引くと、ふたり、揉み合いになる。



「どこ行くねん!」


「離れるのがお互いのためって言ったじゃない!」


「やからって出ていく場面ちゃうやろ!
お前、さっきのこと忘れたんか!」


言った瞬間、バランスを崩した理乃が倒れるような形になり、驚いた拍子に俺までフローリングに突っ伏してしまう。


気付けば理乃を押し倒すような格好やった。


数センチの距離で、彼女は涙の混じる瞳を逸らす。