「嬉しかったのは確かだ。それによ、そろそろあの馬鹿もここから去るべきな気がしててよ。あのガキが一緒に連れ出してくれんじゃねぇかって……な。」

千葉に来た頃の杉宮兄弟はヤンチャで喧嘩ばかりしていた。

ある日たまたま樹が不良連中と喧嘩しているのを濱田が止めた。

樹は喧嘩を邪魔されたと濱田に殴りかかり、人生で初めて喧嘩で負けることになった。

樹の手当てをするために工務店に担ぎ込んだのだが、目覚めた樹が放った一言はこうだ。

「手当てなんて余計な情けかけやがってこの糞ジジィ。てめぇを倒すまで何度でもここに来てやらぁ。」

で、毎日の様に濱田に挑んでは負け。挑んでは負け。を繰り返していたうちに何故か、自然と工務店で働くようになっていた。

「もう樹はあの頃とはちげぇ。そろそろよ、社会に戻るべきだと思うんだよオレはな。」

吸い切ったタバコを灰皿に押し付けると、タバコの先から最後の煙が舞った。

「ふーん。ハマさん頭使うの苦手なんだから、いちいちそんなこと考えなくても良いのに。」

葛城の言葉にむっとする濱田。

葛城は残っていた仕事を終えるとカバンを手に取り席を立つ。

「あいつはここを離れませんよ。同じようにしてハマさんに拾われた僕が言うんだから間違いない。」

にっと笑うと、葛城は「お疲れ様です」と言って帰っていった。

それからしばらく事務所の明かりが消えることはなかった。