あたしを恋人だと言った男は、名前を遼と、名のった。

 信じたわけではなかった。遼という人が、私の恋人であることを。

 ただ、その人は、何にもわからないあたしに、優しく接してくれていた。

 遠距離恋愛らしく、なかなか会う時間がないことを教えてくれた。

「ケガ、大丈夫ですか?」

 あたしは、肩の傷を気遣った。

「大丈夫だ、かすっただけだ。師範らしいやり方だよ」

「え?師範?なに?」

 あたしは、聞いた。

 遼さんは、ただ黙ったまま、あたしを見つめた。見つめられて恥ずかしくなり、あたしはうつむいた。

 遼さんは、あたしの隣に座った。

 ドキン。とした。

 ナゼダロウ。


この人のことを思い出せないのに・・・。


 遼さんが、優しく手に触れてきた。

「無理に、思い出さなくてもいいさ。欄が俺だけを見ててくれれば、記憶なんてないままでもかまわない。俺は、この先も、お前だけを愛してく」

そう言って、遼さんは、髪にも触れた。

「あの……」

 遼さんの顔が近づいてきた。


え。


あ。


どうしよう・・・。


あたし、ホントにこの人と、付き合ってたの・・・?


 拒む前に、遼さんに、唇をふさがれた。

 優しいキスだった。

「このキス、覚えてない?」

 遼さんに見つめられた。

「ご、ごめんなさい」

 目線を外しながら答えた。

「よく、思い出して」

 そう言って、遼さんは、またキスをしてきた。頭の奥で、何か聞こえたけど、聞き取れなかった。

「欄・・・」

 遼さんは、名前を呼びながら、ブラウスのボタンを外しにかかっていた。

「遼さん、待って。あの・・・」

「待てねぇ・・・いつもは欄からねだってきてたろ?」

 あたしの顔が、カァ~ッと赤くなった。


え?


そうなの?


あたしから?!


付き合ってるって、やっぱり、そういう関係なの(>_<)?


「遼さん、だって、まって、こんなトコで」

「いつもみたいに、遼って呼べよ」

「あの!りょ、遼!さんっ!待って・・・」

 あたしは、遼さんの腕をつかんだ。