あたし達は、とあるホテルの最上階に場所を移動していた。

「明日、中国へ旅立ちます。必要な物はホテル内で揃えられますから、フェイと一緒に行くといい。今の格好じゃディナーどころじゃない」

 フェイと言われた男は、黒人の大男だった。



明日。



なんとか、しないと(>_<)



師範さんは、買い物の時は、一緒じゃないんだ。



 その時しかなかった。


「欄、こちらへ」

 あたしは、なるべく逆らわないように、言われた通り、歩いて行った。

「欄、顔を見せてください」

 師範の両手が、あたしの頬を挟んだ。

「人と会って来ます。キスを」

 あたしは、震える手で、師範の頬を挟み、ゆっくり引き寄せ、キスをした。

「続きは帰ってきてからたっぷり可愛がってあげますからね」

 そう言うと、師範は、おでこにチュッと軽くキスをし、部屋を出て行った。

 あたしは、唇とおでこを手の甲でぬぐった。

 気を取り戻し、心を落ち着けた。



 欄!



 また、頭の奥で、声が聞こえた。

 遼さんといた時に聞こえた、あの声だった。

 どこかで聞いたことのあるような声だった。



低音の……。



 顔は全く思い出せなかった。


 あたしと、何か関係があるの?


 思い出そうとしても、何も思い浮かばなかった。

 あたしは、廊下に立っているフェイさんのところへ行った。

「フェイさん・・・買い物に・・・」

 早速準備に入った。

「かしこまりました」

 フェイと呼ばれた黒服の男は、一礼すると、あたしをエスコートした。

 ホテルの外へ出ようとしたら、フェイさんに、止められた。

 あたしは、焦らないように、ゆっくり洋服やら、靴やらを見て行った。見ながら逃げ場所がないか通路も見ていた。

「フェイさん、欲しいのがたくさんあって、決められないんだけど」

「ならば、全てお買上なさってください」



え?



「いえ!それはっ!あ、試着して、気に入ったのだけにするんで。じ、時間かかるから、散歩でもしてて」

「気にしないでください」



気にしてよ(>_<)!



どっか行って!