なんでっ!



なんで、何にも思い出せないの!!



少しのカケラも思い出せない!



あたしも、この人みたいに、顔色変えないで、人殺ししてたの?!



「欄、まだ信じてないんですか?」

「し、信じ、られません!」

「・・・そう言えば、欄。遼と2人で、私達をのぞいてましたね」



のぞいてた?



「何の事ですか?遼さんとは、洞窟で、初めて会いました。それ以前に、遼さんとは会ってません」

「・・・そうですか。いいことです、欄。できたら、私の妻であることだけでも記憶を取り戻してください」


妻・・・?


本当に・・・?


「なんなら、ここで愛を確かめあいますか?」

 師範が、いやらしく足を触ってきた。

「イヤッ!」

 あたしは、師範の頬を、おもいっきり張り倒した。

「ッッッ!相変わらずですね、気の強さは」

「へ、変な事したら!」

「寂しいですねぇ。記憶を無くした途端に、妻が夫を拒否するのは・・・毎晩、愛し合っていたのに」

「やめてください!」

「お前の弱点を教えましょうか?」

「そ、そんなもの、ありませんからっ!」

「それとも、気持ちよくなるツボのほうが、いいですか?よく、ねだられたものでしたね。それさえも、忘れてしまったんですか?まぁ、記憶は忘れても、身体は覚えてるでしょう。私好みに仕込みましたからね、全て」

 そう言って、師範は、笑った。

 何にも聞きたくなかった。

 精神的にキテいた。逃げ出したかったけど、逃げた瞬間に、遼さんみたいに、殺されるような気がした。今は、我慢するしかなかった。

 遼さんの言葉を思い出していた。


 捕まったら最後だ。と。


 一生奴隷だと。



もしかしたら、あたしは、この人の奥さんだったのかもしれない。


でも。


そうだったとしても、この人を、愛してはいなかったと思う。


きっと、逃げるために、遼さんと何かをして、失敗したのかもしれない。


 あたしは、師範を見つめながら、そう思った。