「欄、どうしたんですか?記憶が無い事を言おうか、悩んでるんですか?」

 あたしの心を読んでいるかのようだった。

「あ、あの・・・」

「記憶が無いくらい気にしません。欄の、仕事に差し支えはないでしょう。身体は覚えてるはずですからね。向こうに着いたら、特訓してあげますよ」

 師範という男は、あたしを車にのせた。



記憶がない事を知っているの?



あたしの仕事?



身体が覚えてる?



特訓?



あたしは、師範という男の言葉を考えた。



あたしは、何をしてるの?



向こうって……?
 


 そんな様子のあたしを見て、師範という男が、クスッと笑った。

「自分の事が、気になりますか?」

「それは・・・」

「欄、私が何者かわかりますか?」



何者?



顔色変えずに、人殺しをした。



それが怖くて、一緒にいるけど・・・。



考えたくもない。



この人の、職業なんて。



「・・・暗殺業ですよ。欄、お前も同じです。遼もね」

 師範という男の言葉に、耳を疑った。



え?



暗・・・殺・・・?



あたし、も・・・?



遼さんも・・・?



あたし、も、人を、殺してた、の・・・?



「やってましたよ。依頼されればね。さっきも、怖くなかったでしょう?驚いたとは思いますが。お前は、優秀な私のパートナーですよ。そして、良き妻です」

 言葉が、出なかった。

「中国で仕事していたのですが、日本のある依頼に、断れなくて私と観光がてら来日したら、事故にあい、記憶を無くしたんですよ」



な・・・に・・・?



何を言ってるの・・・?



 理解出来ない事を言われているような気がした。

「欄、中国へ帰りましょう」

師範という男が、抱き締めた。腕に抱かれながらも、あたしの頭はグルグルしていた。

「欄・・・」

「・・・あたしが、あなた、あの、し、師範さんの奥さん、なの?あたしは、人殺しの、仕事を、しているの?あたしは・・・」

 

思い出せないっ(>_<)



どおしてっ!?



人殺しだよ!



顔色変えずにあんなことするような人の奥さんだよ!