「大丈夫ですか?欄」

 あたしは、慌てて遼さんから離れて、その人の所へ走りよった。

 足元には、遼さんを殴ったと思われる棒が転がっていた。

「助けてくださいっ!」

「もぅ大丈夫ですよ」

 その人は、あたしに自分がはおっているコートを、かけてくれた。

「遼、探しましたよ。よくこんな場所を見つけましたね。何をやりたいんですか?組織から抜けたいんですか?」

 助けてくれた人は、遼さんに質問した。

 遼さんは、黒服の男2人に、両脇を支えられ、何とか立っている感じだった。

「組織を抜けたいなら、勝手にすればいい。ただ、欄を巻き込むことは許しません」

「・・・悪ぃな、師範。どんなに、あんたを、崇拝してて、も、渡せねぇもん、が、あんだよ」

 言った瞬間に、師範と呼ばれた男は、遼さんに向かって、拳銃を撃った。

 1発ではない。

 何発も、弾がなくなるまで、顔色ひとつ変えずに撃った。

あたしは、その光景を、目を見開いて目撃していた。

「いやぁ~っ!」

 その場に、立ちすくんだ。

 ドサッと倒れた、遼さんの右手が、あたしの方へ伸ばされていた。あたしは、おもわず、遼さんの所へ駆け寄ろうとしたが、あたしの体を、師範という男に救い上げられてしまった。

「お、下ろしてっ!」

「無事でよかった。さ、行きますよ」

「下ろしてっ!人殺し!あなた誰!?」

 師範という男は、スタスタとあたしを抱えたまま、ドアへ向かった。

「ら・・・ん・・・」

消え入りそうな、声がした。

あたしは、抱えられたまま、遼さんを見た。

辺り一面血の海のようだった。

「後は、任せますよ」

 師範という男は、黒服の男に命令すると、部屋を出た。

「あの、下ろしてください。逃げませんから。言うとおりにしますから」

 あたしは、師範という男に懇願した。

「何を企んでるんです。しおらしいじゃないですか。遼を殺ったのが、いささかショックでしたか?」

「あなたも・・・私を、知ってるんですか?」

 あたしの質問に、師範という男の動きが止まった。

「まるで、自分が何者か、わからないような口振りですね」

「・・・」


言っても、いいんだろうか?


記憶が無いことを。


人を殺すような人に・・・。