教室に戻ると、香奈は笑顔だった。


「香澄!どこ行ってたの?」


「香奈…」


無理してるのが分かった。


「香奈…知ってたの?香奈が松原君に…」


彩夏が小声で聞いてきた。


「うん…昨日松原君に…相談された…」


相談なんて嘘なのに…


「どうして松原君は森田君にも言わないことを香澄に言うんだろうね」


そう言うと彩夏は席に戻った。




放課後、山本君を屋上に呼び出した。


ここで気になっていることを聞き出そう…


「沙織さんは…どうして元気がないの?」


山本君は静かに話し出した。


「事故に遭ったんだ…それで入院してた。それで精神的に辛いのもあるんだけど…」


風が吹いていない…


「でも…それだけじゃなくて、彼氏が急にいなくなったんだ…」


何かの前触れみたいに、風も何もかもなかった…


「そこからだった…」


……


「……」


少し沈黙が続いた。


下のグラウンドには下校している生徒が見えた。


そこは時間が進んでいるのに、屋上は時間が止まっていた。


そして、


「松原なんだ。彼氏…」


山本君は私が知っているとは知らず、重い口を開いた。


私は何も言えなかった…


「あいつは、多分桐原さんはこの世にいないと思ってる…」


「……」


「桐原さんはまだ、好きなんだよ…松原が…」


「今でも…」


「…………」



松原君は沙織さんが好き…でも死んでしまったと思っている。

でも、沙織さんは生きていた。
今でも松原君を想って…


簡単なことだ…

二人を合わせれば、二人は幸せになれる。


私が大好きな松原君の笑顔が見れる。


…でも私は…


「また…泣いてるよ…」

山本君が優しく言った…



また泣いている自分に嫌気がさす…

悲しくて泣いてるんじゃない…

悔しくて泣いてるんだ…