「優しい人だった…それで、かわいかった」


私はいつの間にか山本君の話に吸い込まれていた。


ゆっくりで静かに話す山本君の声はとても居心地がよかった…



「名前は…なんて言うの…」


私は自然にそんなことを聞いていた。



「名前…?」


山本君は少し間をおいてから、こう言った。



「桐原…沙織って人…」




「!…沙織さん…」



「知ってるの?」


また大きな目が私を見つめる。


「え…いや、名前だけは…」



「そっか。好きだったんだけど、桐原さんには好きな人がいるんだ…」



それって、松原君…



「君は似てるんだ…」


「誰に…?」



「桐原さんに」


私が…?



「雰囲気というか、全てが似てる気がする…」


そして、山本君は私に近付くと、


「なんだか…よく分からないけど、蒼井さんが桐原さんに似てるとか、そんなんじゃないけど…」


「どうしたの…」


「君が気になる…」



「えっ…」



私は頭がパンクしそうだ…


どういうこと…


沙織さんは、生きてるの…


どうしよう…松原君に…



私が立ち上がろうとしたとき、


「まって…」



「えっ…!」



山本君は私の腕を掴んだ。


「いかないで…」


「どうしたの…」


「…ゴメン…」



「…」



山本君は静かに手をはなした。


栗色の髪が風で揺れていた。


大きな目は遠くを見ていた。


彼の奥深くに沙織さんがいるような気がした。


沙織さんは生きてるの?


「沙織さんは…生きてるの?」



私は山本君の顔を見た。



山本君は静かに頷いた。



松原君は、まだ沙織さんのことが好きなのかな…



沙織さんが生きてるなんて…松原君に言ったら香奈が…



「ねぇ…このことは誰にも言わないで…」



「どうして…?」