「無理だ……彼女ことしか頭に入らない…」




夕日が沈んでいく…



カーテンが揺れている…




私は彼の心の中には絶対に入り込めないと確信した。



震えている彼を、今にでも抱きしめたいのに…



今、彼は亡くなった彼女のことを考えている…



私は、そんな彼の側にいたくなかった。



そして最後に、


「どうしていきなり私にその話をしたの?」



彼はゆっくり振り返ると、


「君が階段から落ちたときにも、守れなかった…」



「えっ?」



「その時…君が…沙織に見えた…」



沙織…



私は彼の顔を見て分かった…



松原君はまだ沙織さんに恋をしているのだと…



私はまだ痛い足を無理矢理に動かし保健室から逃げた。




廊下には誰もいなかった…



「バカ………私はバカだ……」


頭が…足がズキズキする。






私はお金も、学歴も、あなたの彼女になれなくたって構わない…


だから…



あなたの側に一秒でもいいから…いさせて下さい…





「蒼井さん!!」




「…森田君……」



玄関に森田君が立っていた。



「松原君だったら…保健室に…」



「泣いてるの?…………もしかして事故の話…」



…どうして…森田君が知ってるの?



「その顔は、やっぱり…聞いたんだ…」



「森田君も聞いたの?」



そう聞くと、森田君は私の目をじっと見て話し出した。



「あいつは、あの時救急車に乗らなかったらしい。病院にも行かなかった。見舞いにも…救急車に運ばれてから一回も会ってない」



「どういうこと…?」



暗い玄関の中…



「それだけ…じゃあな」



そう言うと、森田君は玄関からでていった。




「もしかして…」





生きてる………