どうした、ゆう?
隣で心配している川瀬君の言葉は聞こえるのに、
あまりの衝撃に私は
息をすることさえも忘れていて。
手に握られた紙には、
"けっこんしようね"の文字。
決して書いた覚えなんてなかったのに、
"ゆう"なんて世の中に何百人といるのに、
その紙を目の前にした瞬間、
忘れようとしていた私の中の過去の記憶の扉が鍵を破って溢れ出してきた。
あのころは小さくて、
悲しいことは忘れてしまえ。
そう思っていたから、
なんて
忘れていたことへの
言い訳にもならないけど。
悲しい思い出には蓋をして鍵をしめて、
その記憶を
楽しい思い出で心の奥底に埋めてしまおう
そのことこそ
あの頃の私にとって
正解だったんだと思いたい。
そっと顔をあげると、
未だに心配て陰る彼の顔。
それを見てやっと
今、目の前にいる川瀬君と
私の記憶の中のたっちゃんとが
繋がったような気がした。