「沚さんには、ちゃんとお礼しないとなって思ってました。…沚さんが居なかったら…今頃、きっと俺学校なんか行けなかったし」
「……大袈裟だな」
「そんなことないッス! だって、絶対俺人殺しになってましたもん」
「無理無理。かすり傷程度の血でもビビってんだから」
必死な基に、楡はふっと笑ってしまう。基は悔しそうに怒る。
「ったく、バカにして……ま、とりあえず。俺は元気にやってますから。沚さんも頑張って下さいね」
「どーも」
基は話を切り上げて立ち上がる。
「あ、そーだ」
基は楡を見て言った。
「沚さんも笑ったりすんだね。ちょっとビックリ」
「……………」
楡は口元を押さえて固まった。どうやら微笑んだ自覚が無かったらしい。
「じゃーね! そのうち遊びに行きますよ」
手をひらひらと振りながら、にっこりと年相応の笑顔で、基は駆け足で去っていった。
やはり、子どもには笑顔が一番似合うな、などと楡は思った。
そこで初めて、ポケットの携帯電話がけたたましく震えているのに気が付いて、慌てて学校に戻った時、楡に教頭の雷が落ちた。