日中、タバコが吸いたかったのと職員室の湿っぽい空気に嫌気がさしたので、学校を出てすぐのベンチに腰を下ろした。
さっきの電話の内容を思い出しながら、100均のライターでタバコに火を点ける。
───犯人の顔くらいは拝んでみたかったな……
もうこの世には居ないのだから、叶わないことなのだろうけれど。そう思い到って、自嘲気味に笑ってしまった。今更犯人の顔を見て、何をしようというのだ。
終わったことだ。過ぎたことだ。
誰も、何も、返ってはこない。
「沚さん?」
「?」
不意に声をかけられて、楡は顔を上げた。
視線を上げると、「やっぱり」と微笑みながらこちらを見返す、意志の強い瞳と、あどけなさが目立つ少年が立っていた。
「基……?」
「今勤務中でしょ。何してんですか?」
そう言いながら隣に腰掛ける基も学生だ。楡は言い返そうとしてやめた。以前にもこんな光景を見た気がする。立場は違うが。
「俺は今日は午前授業だったんで。ホラ、だから制服でしょ」
基は夏服の薄手のシャツを指差した。確かに、地元の中学校のものだ。
「……俺、今は知り合いの家でお世話になってるんです。犯人捕まって、まだちょっと整理着いてないけど…落ち着いてきたかな、って」
基は苦笑しながら話し始める。楡はまだ長いタバコを携帯灰皿に押しつけた。