楡は明衣の疑うような、悲しそうな視線を振り切るように、彼女に悟られないように逃げるようにその場から立ち去った。
彼女が人の心を敏感に察知するのは、これまでの経験で何となく判ったから。
だから、今回の極秘の依頼を彼女に知られてはならないと考えたのだが、かえって不自然だったか、と今更ながらに思う。
あの目は、明らかに自分を疑っていた。
楡はケータイを取り出し、ある人間に電話を掛け始めた。
『…もしも〜し?沚たん?久し振りじゃん。何、またそっちの変な部活でやらかしたの?』
「若干違うけど…うん、似たようなもんかな…」
楡が曖昧に答えると、電話越しに豪快な笑い声が聞こえた。
『良いよ良いよ。沚たんの話だったら何でも聞くし』
「さんきゅ、源『げん』さん」
『良いって事よ。で?用件はなんだい?』
楡は簡潔に、基の家族のことを話した。
『成る程ねぇ。判った。過去の資料とか洗ってみるわ』
「頼むな…」
『ん、したら何か判ったら連絡するし〜』
ブツ、と電話は切れた。