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部室に着くなり、明衣は演奏会のチケットを、本郷と五月女に差し出した。

もちろん二人は目を丸くし、明衣を不思議そうな顔で見返してくる。


「これ。吹部の演奏会のチケット。友達から貰ったんだ。タダだから、行こうかなー、なんて」


明衣は言った。

すると、二人は嬉しそうにそれを受け取りながら、口々に喋りだした。


「どういう風の吹き回し?何か良いこと有ったの?」

「珍しいな、どうしたのさ」


明衣は嫌そうに眉を寄せ、「要らないなら返せ」と言いながらチケットを取り上げた。

「あぁ、要る要る!」と二人は再び受け取った。

その時、楡が部室に入ってくる。

明衣は同じようにチケットを差し出した。


「これ。演奏会のチケット。友達から貰ったんだけどさ、メンバー皆で行かない?」


楡は顔を上げる。

怠そうな表情でチケットを見ると、それを指で摘むように持ち上げた。


「……俺、パス」

「は?」


楡はそう呟いて、タバコに火を点けた。

明衣は不愉快そうに楡を睨む。


「……用事、あるから」


楡は煙を吐き出した。

その表情は、何処か辛そうで、苦しそうだった。