◆
部室に着くなり、明衣は演奏会のチケットを、本郷と五月女に差し出した。
もちろん二人は目を丸くし、明衣を不思議そうな顔で見返してくる。
「これ。吹部の演奏会のチケット。友達から貰ったんだ。タダだから、行こうかなー、なんて」
明衣は言った。
すると、二人は嬉しそうにそれを受け取りながら、口々に喋りだした。
「どういう風の吹き回し?何か良いこと有ったの?」
「珍しいな、どうしたのさ」
明衣は嫌そうに眉を寄せ、「要らないなら返せ」と言いながらチケットを取り上げた。
「あぁ、要る要る!」と二人は再び受け取った。
その時、楡が部室に入ってくる。
明衣は同じようにチケットを差し出した。
「これ。演奏会のチケット。友達から貰ったんだけどさ、メンバー皆で行かない?」
楡は顔を上げる。
怠そうな表情でチケットを見ると、それを指で摘むように持ち上げた。
「……俺、パス」
「は?」
楡はそう呟いて、タバコに火を点けた。
明衣は不愉快そうに楡を睨む。
「……用事、あるから」
楡は煙を吐き出した。
その表情は、何処か辛そうで、苦しそうだった。