楡は昨夜のことを思い出していた。


───………


『なぁ、お前家どこ?』


遠慮がちに床に蹲っていた基に、楡は問い掛けた。

基は肩を震わせて振り返った。

台所でうどんを茹でていた楡は、そんな彼の様子に表情は変えずに心の中で苦笑した。


──拾われてきた野良猫だな


『帰る場所なんて……無いよ。だって、家族は殺されてるし…今は親戚の家に居るけど、…皆同情しかしない』


大人を信じることを忘れた目だ。

楡は熱々のうどんを持って、テーブルに置いた。


『別に、泊まっても良いけど。着替え、乾かしとくし。取り敢えず、飯、要るでしょ?』

『良いの?』


基は恐る恐る尋ねる。

楡は頷いた。


『別に。困ることないし。俺、ソファーで寝るから、君はベッド使うと良い』

『……ありがと…』


基は潤む瞳を誤魔化すように、熱々のうどんを啜り、そして熱さに吹き出したのだった。