基は、楡の瞳の変化に少しだけ疑問を覚えながら、それでも、悔しさと自分が人を傷付けた事の罪悪感に、どうにかなってしまいそうだった。

シャワーを浴びたので血行が良いのか、傷は然程深くないようだが出血が酷い。

玄関に続く廊下に、小さな血だまりが出来た。


「………二年前の、強盗殺人事件の事か?」

「……ああ…」


楡は、彼の発言で、一つ思い当たる節があった。


2年前、世間を震撼させた強盗殺人事件があった。

息子は部活の遠征に行っていため無事だったが、両親は強盗に殺害されたようだった。

盗まれたのはたったの五万円。

犯人は、目撃者やその他の証言から断定されたが、証拠不十分で無罪判決を受けた。


テレビで放映されていた子供の泣き顔。

それが、彼だったのか。


「俺、テレビでは遠征に行ってたことになってるけど、本当は…犯人の顔、見てたんだ」

「………」

「ちょうど、帰ってきたときに。目が合ったんだ。アイツと」


──裁判で無罪判決を受けた、奴の勝ち誇った顔が忘れられない……

基は、ついに蹲って泣き出した。