少年は居心地悪そうに俯くと、ポツリと小さく言った。
「──…基(もとい)……」
「……ん?」
「花村基!」
楡が聞き返すと、怒鳴るように名乗り、基は大股でソファに歩み、座った。
「ふーん、基ね…」
楡は呟いてから、バスルームに消えた。
残された基は、どうしようもない居心地の悪さに、そわそわと落ち着かなく視線を泳がせたり、貧乏揺すりをしたり、とにかく黙っていることが出来なかった。
楡が没収したナイフは、さっきまではしっかりと管理されていたにもかかわらず、今は無造作にテーブルに置いてあった。
「…………」
そのナイフに手を伸ばし、柄を握る。
すると、さっきまで落ち着いていた衝動が、再び襲う。
──…殺してやる!
ナイフを掴んだまま立ち上がり、玄関に向かおうとした。
ガシッ。
「……どこ行くの?」
「…あ……」
基の腕を掴んだのは、タオルを頭に被った楡だった。