ぐっしょり濡れたまま、楡は自宅であるアパートの一室の玄関の鍵を鍵穴に差し込み、そのまま少年を中に無理矢理押し込んだ。


そして、自分も続いて中に入ると、部屋からバスタオルと着替えを取り出し、乱暴に少年に投げ付けた。


「何すんだよ!……」


少年は声を荒げるとバスタオルと着替えを不思議そうに眺めた。


「風呂入って着替えて。そのままじゃ風邪引いちゃうでしょ」


楡はタオルで頭を拭きながら言う。 

少年は唇を噛んで困ったように立ち尽くしていたが、やがて「お邪魔します」と言いながら楡が指差したバスルームへ向かっていた。


楡は少年の背中を見送りながら、一つ二つ、小さなくしゃみをした。

そして、ソファーに凭れ掛かると、目を閉じる。


──………


魔が差したとでも言うべきか。


見ず知らずの少年の世話を焼くだなんて。


「……そうか……」


あの人も────……


きっと、こんな気持ちだったんだな。


シャワーの音を遠くに聞きながら、楡はタバコに火を点けた。