反射的に、体が動いていた。
前から歩いてくる雪崩のような、ロボットのような人並みを掻き分け、危ない少年の腕を掴む。
人のことを言えた義理ではないが、黒いパーカーのフードを深々と被り、傘も差さずに歩いているものだから、怪しいことこの上ない。
「何してんの」
「………!」
パーカーに隠れた表情が引きつるのを、雨粒で霞む視界に捉える。
ナイフは雨で濡れて、怪しい輝きを放っていた。
二人を気にする様子もなく、人の波は横断歩道を進むのだった。
◆
いったんその場を離れ、楡は少年を連れ、自宅へ戻ることにした。
「何だよ、アンタ!」
その道中、少年は悔しそうに叫ぶと、フードをバサリと掻き上げ、楡を睨み付けた。
楡は悪怯れもせず、少年に上着を被せながら濡れて使い物にならないタバコを捨てた。
「君こそ何?あんな所で刃物持って。危ないでしょ」
「うるさい!アンタなんかに何がわかるんだよ!」
中学生くらいの、短髪に鋭い目付きの少年は、楡に没収されたナイフを恨めしそうに見ている。