マイクに息を吹き込み、城ヶ島は歌い始めた。


「………うそぉ……」


会場は茫然としながらも、はっとしたように息を呑む。


♪『俯いて歩いてたんだ
あたしが見てたのは自分が残した足跡で
あたしの脳内メーカーは現実逃避の文字ばっか』♪


透き通るような声は会場に響き渡り、さっきまで内股でモジモジしていた彼女の面影は何処にも無い。


「ちょっとカッコイーじゃん」

「城ヶ島さんってこんなキャラだっけ?」


初めは城ヶ島など眼中に無かった生徒も、その歌声に魅了され始める。


♪『他のことは下手くそなのに
逃げ道探すのはやたら上手くて
もうやんなって
こんなん違うって
少し顔上げたんだ』♪


サビの前のベースソロに、会場が更に沸いた。


「初心者のくせにやるじゃねーかよ、良祐!」

「良いよー!」


五月女を見守っていた友人が、両手をメガホンの要領で口元に当てて叫んだ。