会場は静まり返り、城ヶ島ははっとしてステージを見る。
「私達のバンドのボーカルはあの子しか居ないの。あの子の歌は、あの子にしか歌えない。ただ、少しだけ……」
本郷は、体育館の隅で蹲る城ヶ島を、ステージの上から発見していた。
目線をそちらにやる。
「一歩踏み出す勇気が、足りないの」
城ヶ島の胸に、ドスンと重く突き刺さる。
震えが止まらなかった。
「私は知ってる。彼女の心の声を。彼女の歌声を。
彼女の頑張りを。
だから、皆───…」
本郷は息を大きく吸い込んだ。
「桃子を、ステージに呼んであげてー!」
本郷の叫びの後、会場のどこからともなく、桃子!桃子!と聞こえてきた。
城ヶ島は、怯えたままステージの本郷を見る。
本郷は優しく微笑んだ。
──決めたことは……
最後までやり通すものだから……──
城ヶ島は、ステージへ駆け上がった。