その頃の体育館は、ざわめきで埋め尽くされていた。


High-Soundの前の団体の演奏はとっくに終わり、次に演奏するはずの彼らがステージに居ないのだから。


「明衣、一体どうしたの…?」


不安そうに呟く、客席の美帆子。

その隣には、同じく不満そうに口を尖らせた明衣の姉・麻衣。


「せっかく来てやったのにさ………」



その時、わぁっと一瞬会場が沸いた。


前を見ると、メンバーがステージに並んでいた。

が、一人足りない。


マイクの前に立った本郷は、ざわめきを残す会場に、言葉を投げ出した。


「皆、今日はありがとう。High-Soundです。…皆も知ってると思うけど、私達、今メンバーが足りないの。
ボーカルが居ないのに、バンド演奏なんて出来ないよね…」


見た目が可愛らしい本郷のファンは男女関係なくたくさん居る。

残念そうに話す彼女に、「そんなことないよー!」とか「蘭ちゃんが歌ってー!」という声が掛かる。


体育館の隅でその様子を見ていた城ヶ島は、肩を震わせた。


───私じゃなくても……


悔しい、と思った。

涙が出そうだった。


「ダメなの」


そう言ったのは、皆の応援を一身に受ける、本郷だった。