部室に戻り、五月女が気を遣って皆に麦茶を注いでいたとき、城ヶ島が不安そうに眉を八の字にしながら溜息を吐いた。


「桃子?」


その様子を見た本郷が彼女に声を掛ける。

城ヶ島は麦茶を受け取ると、それを飲まずに両手で包むように握り締めると、ポツリポツリと口を開いた。


「私、急に不安になっちゃって……あ、明日…歌詞間違えたらどうしようとか、上手く歌えなかったら……私………」


だんだん自信が無くなってきたのか、しゅんと俯きながら喋る城ヶ島に、明衣は口を尖らせた。


「今更何言ってんのよ。出たいって言いだしたのはアンタでしょ。あたしなんか、手に水脹れ一杯作って、痛いの我慢して練習したんだから。今更メソメソ泣き言言ってんじゃないわよ。そんなことなら、アンタ今までと何一つ変われないわ。バカにされたまんまね。あたしには関係ないけど」


一応先輩であるはずの城ヶ島にため口で一気にまくしたてると、明衣はグイッと麦茶を喉に流し込んだ。


「自分で決めたことは最後まで一生懸命やるの。失敗なんて恐がってたら、前になんか進めないのよ」


明衣の言葉は、城ヶ島に深く突き刺さっていた。