「明衣ちゃん」


楽器をケースにしまっていると、不意に本郷に肩を叩かれた。

明衣は少し驚いたが、何でもなかったように「なんですか?」と尋ねた。

本郷はいつもの綺麗な笑顔のまま、明衣に言った。


「明日から、少しずつソロの練習しましょ。メトロノームはゆっくりに設定して、ね?」


明衣はそれを聞いた瞬間、少しだけテンションが下がった。

まだ例のソロは、楽譜が混んでいる事を理由にほとんど手を付けていなかった。

連符の波を見てしまうだけで、如何せんやる気が削がれるのだ。


「はーい……」


明衣はヤバイな、と思いながら返事をした。