明衣の指は水脹れが出来、弦がそこに引っ掛かって上手くコードチェンジが出来ないほどだった。
けれど、治るまで待っていては本番には間に合わない。
グニグニとそこをいじりながら、楽譜に目を通す。
何より苦戦しているのは、本郷のギターソロの被せでハモリが入るところだ。
初心者の明衣に、アップテンポでの連符は厳しく、どうしても左右の手の動きが合わなかったり、左手が動かなかったりした。
「それにしても珍しいわね。アンタがそんなに真剣になるなんてさ」
麻衣がふと呟くように言った。
明衣は楽譜から目を離し、麻衣を見上げる。
「だって、いつも『何マジになってんの?バカじゃん』とか言ってたじゃない?
それが、今はアンタがその『バカ』になってんのよ?不思議じゃない?」
明衣はそれを聞きながら、そういうそうだなと頷いた。
普段は冷めてるから、何かに一生懸命になるのは馬鹿馬鹿しいと思っていたのに。
──今のあたしは………
理由なんて無かった。
ただ、コンテストで優勝したいと思っていた。