「ロゼリナータ様っ!!」
名前を呼ばれ、私は足を止めた。
振り返ったそこには、ふわりとした黒髪に、紫色の瞳で私を見ている女性の姿。
…何故か、仁王立ちで。
「…マレッタ様。どうなさいました?」
私がそう訊ねると、マレッタ様の眉がピクリと動いた。
「…用は、ないですわ」
「…はぁ…」
―――用がない。
けどこれは、ここ最近よくあることで、私は特に驚きはしなかった。
「………」
「………」
訪れる沈黙。
マレッタ様は先程から、じっと私の顔を凝視している。
「あの…私の顔に何か?」
そう口を開くと、マレッタ様の顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
「―――な、何でもありませんわっ!!」
大きな声で叫んだあと、マレッタ様はすぐに背を向け、走って行ってしまった。
私はその後ろ姿を、眉をひそめて見送った。