「まぁ、仕方ないか」

そう言って、少し困ったような顔をする先輩。

「俺、昼間はいきなりソラのことを聞かされて、めちゃくちゃ動揺して、美夕ちゃんにもキツイことを言っちゃったけど……こればっかりはね」


仕方ないよ。

まるで自分に言い聞かせるように、先輩は繰り返し呟いた。




──あたし、どうして先輩じゃ駄目なんだろう?


こんなに優しくて

こんなにあたしを大事に想ってくれるのに。



どうしてあたしは、こんなときにもソラの顔を思い出しちゃうんだろう……。




「隣に座ってもいい?」

あたしの「はい」って言う返事を確認してから、先輩はゆっくりと立ち上がって、あたしの隣に移動する。

先輩がベッドに腰を落とすと、ベッドのスプリングがキイって音を立てて軋んだ。


先輩は、黙っていた。

ただあたしの隣で頬杖をついて、じっとあたしが泣き止むのを待ってくれて。





……それに気付いたのは、沈黙がずっと続いたその後、

ふと先輩のほうに視線を移した時のことだった。


「……先輩?」


あたしが目にしたのは、先輩の右手。

その甲は、鮮やかな赤に染まっていた。


「あ、これ?」

先輩は自分の手を目線の高さまで持ち上げると、笑って言った。



「さっきね、ソラを殴っちゃったんだ」