「やっぱり、やめろってことかなぁ。
わたし、タツル君に相応しくないってことかなぁ」

床を虚ろに見つめる瞳に、涙が溜まり始めている。

「ごめんね、タツル君。ホント、ごめんね」

と言うと、堤防が濁流で押し壊されるような勢いで泣き始めた。

顔中を皺くちゃにして、涙も鼻水も垂れ流して、床に蹲りながら号泣している。
彼女は自分では気付いていないが、きっとこれはマリッジ・ブルーのせいだろう。

僕は椅子から立ち上がると、傍らにしゃがみ込んだ。
「許さない」

ぐしゃぐしゃの顔で、彼女は僕を見上げた。

「今更、やめるなんて、絶対許さない」

へ、という表情のまま小首を傾げる。

「明日、俺が貰ってきたら、無理矢理ペン握らせて書いてやる」

にやり、と笑うと、彼女は両手で目を擦った。

上唇まで垂れてきている鼻水を啜ると、満面の笑みで、

「うん!」

と大きく頷いた。