鞄から、クリアファイルを取り出して、それを彼女に渡した。
見る見るうちに表情が和らいでいく。

「こんなこともあろうかと、予備を貰ってきてます」

「さっすが。タツル君」

太陽みたいに笑って、空子さんはボールペンを握った。

予備は、二枚あった。
全部で三枚貰ってきた。




なのにこの女。

三枚とも無駄にしやがった。

一枚目は自分の名字を間違えた。

二枚目は、力が入り過ぎて破りやがった。
セロハンテープで貼ればいいだろう、と言ったら、頑として拒否した。

三枚目は、緊張をほぐすため、喉も渇いた、とか言って、書く前にオレンジジュースを一気飲みしだした。
最後の一枚の婚姻届の前で。

そして、思いっ切りむせて、用紙をオレンジ色に染めやがった。

あんまり太くない堪忍袋の緒が切れそうになっていると、空子さんはその場にへたり込んだ。